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ちいさなちぃちゃん

ピアノが弾けて猫がいればそれで十分なのです。

グッドバイ マイ…

こんにちは♪

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今日はベランダ散歩が出来て嬉しいちぃちゃん。


さて、今日は金曜日。
最近の金曜ロードショーは懐かしい名作を放送しているそうで、今夜はスタンドバイミーが放送されるそうです。


スタンドバイミーというと、色々な思い出がありますが、中学時代を思い出します。

中学2年生の時。
3年生を送る会で劇を行うことになりました。

その劇をざっくり説明すると、

舞台は、生まれる前の世界。
これから生まれる予定の主人公の4人が
どんな環境でどんな人生なのかを教わる。
それを知り、生まれるも消えるも選ぶのは自由。さて、どうする?

という内容。


その、これから生まれるか、やめるか葛藤する
主人公4人は、それぞれ

教育熱心な家庭に生まれ、勉強漬けの男の子

生まれつき腕がなく、いじめられる男の子

親に放置されグレて不良の道に進む女の子

生後7日目にコインロッカーに捨てられる女の子


登場人物は、他に神的存在の老人、それぞれの親、生まれる道へ誘う白の使者と、反対の黒の使者。


という劇をやるよ。と担任の話を聞いていた私は
「へー。」と、ぽけーっとして、早く帰りたいなーと思っていたところ、


「おい、◯◯ オーディション受けてこい!」


「はー?やだよ!」


「だめ。受けてこい。桃子役な。行かせるように担当の先生に言っちゃってあるから。」



桃子→グレて不良になる子


はぁぁぁぁぁぁあ?
なんでだよ💢💢💢



クラスには私同様、強引にオーディション受けに行って来い命令が下された子がいて、仕方なし一緒に、ぶつぶつぶつ文句ぶーたれながら
行ってみました。

クラスの他の子は、白の使者と、勉強の出来る子。

なんで私が不良の役なんだよ!!
クッソぉぉぉぉ!!💢💢💢

すると、
「はい、桃子役で来た人はこれがセリフね。」
と渡されるも、まるっきりやる気は無し。
覚える気もなし。

ただ、順番が来たらボソッとセリフを吐いて
とっとと帰ろう。早く家に帰るんだ!

待っている間も
クソクソクソクソ!担任め!💢
中々順番来ないし帰れないじゃんかよ!

イライライライライライラ💢💢💢


「はい、次。◯◯さん!」




「馬鹿馬鹿しいっっ!いやだもう!
ああ、信じらんない!!💢💢💢💢💢💢」

(っていうセリフ)


あ、やべ。感情ダダ漏れしちゃった😅てへ。


ん…。ちょっと待てよ。


これはもしかして……



嫌ーな予感は的中🎯

桃子役としてオーディションにやって来た隣のクラスの本物の不良の子より迫真の怒り💢の演技(に見えて素)をしてしまったらしく…



「桃子役は、◯◯さん!(私)」



あわわわわ😱💦💦💦

やだやだやだやだやだやだやだ!!

もう一回やらせて!
間違い!間違い!

「馬鹿馬鹿しいっ💕いやんっもうっ♪
あんっ!信じらんなぁぁぁいっっきゃっ!」

って、言い直すからぁぁ!!(T ^ T)


やぁだぁよぉぉぉぉぅぉぅぉ!(T . T)


はぁぁぁ…そんなぁぁ、ただでさえ3年生からは
ちっとも悪くないのにチャラチャラしてる風に
見られていたワタクシ。あー、さらに誤解されんじゃんよぉぉ!
くそぉぉぉぉぉお!!💢
ムカムカムカムカ!!💢💢
はんっ!あったま来た!!
誰も何も言えないように
とことんやってやろうじゃねぇの!💢✊

何歳に見えてもワタシ誰でも
私は私よ関係な〜いわ〜💢
(多分、このキャラを担任に見抜かれていた)

という、実に可哀想な成り行きで
謂れなきイメージで少女A役にされ
ギャラが貰えるわけでもない、成績が上がるわけでもない、ただ毎日帰りが遅くなり、
周りから「やっぱり◯◯さんってちょっと…💧」
と更にさらに誤解される役をやるハメになってしまったのです。


本当に可哀想だったよ私。
いわゆる普通の14歳だったのに、さ。


しかし、劇を作り上げていく工程は楽しくもあり。最後に、ラストの曲は何をかけようか?
ということになり、いつの間にか自然と
スタンドバイミーがいいんじゃないか?という
ことで、エンディングにスタンドバイミーを流しました。

という私の可哀想な中学時代の思い出と共にあるスタンドバイミー。今夜久しぶりに観たいと思います。


台詞は所々、当時私達が演じたものとは変えられている箇所がありますが(「ファイナルアンサー」とか。)ほぼ、そのままです。

よかったらどんな劇だったのか
興味のある方はどうぞお読みください。

14歳だった私なりにも
この劇は考えさせられる内容でしたが
今、改めて見直すとまた違った視点での思いが湧きました。



  「グッドバイ マイ…」

登場人物

青太     
桃子
黄郎

老人

青太の父、青太の母
桃子の母
黄郎の父、黄郎の母
子どもA・B・C

白の使者1・2・3・4
黒の使者1・2・3・4

(父・母・子どもの役は、白・黒の使者が演じる想定である)


 洞窟のような不思議な空間。心臓の鼓動を思わせるような音。
 立ち込める霧の中で、いくつもの影がゆっくりと動いては消えていく。中央奥に高い台があり、老人が静かに坐っている。舞台上に様々な形の台。・・・眠っているように動かない三つの影。
 (照明)
桃子   あっ、・・・どこ、ここは?
黄郎   ああ、・・・だあれ?・・・きみらはだれ?
青太   ぼくは、・・・ええと、ぼくは、・・・何も分からない。君たちこそだれなの?
黄郎   ・・・分からない。
桃子   ・・・分からない。私たち、どうしてここにいるの?
老人   おめでとう、諸君!
三人   わあ!(驚いて身を硬くする)
老人   あっははは・・・驚かせてしまったかな? そう怖がることは無い。わしはな、ここの案内役のようなものじゃ。
桃子   ここ? ここって、いったいここはどこなの?
青太   僕たち、どうしてここにいるの?
老人   ここか? ここは人間を世の中に送り出すところ。人は皆ここから生まれていく。
黄郎   おめでとう諸君って、僕たちは誰なの?
老人   ま、三人ともここへおいで。・・・よいか、お前たちはもうじきオギャアと産声をあげて、人間として生まれていくのだ。
白の使者1   私たちは白の使者、あなた達をお迎えします。
白の使者2   ほら、あちらに白い門が見えるでしょう。あの門を通って行くと人間の世の中。
白の使者3   生きていく世界があなた達を待っていますよ。
白の使者4   それはそれは楽しい、すばらしい世界。(白の使者たちの笑い)
黒の使者1   私たちは黒の使者。あなた達をお迎えする。
黒の使者2   ほら、向こうに黒い門が見えるだろう。あの門を通っていくとな・・
黒の使者3   いやいやまだ早い。答は後のお楽しみだ。
黒の使者4   ふふふ・・・ま、いずれ分かるさ、その内にね。(黒たちの笑い)
 激しい嵐の音。
青太   何の音、あれ?
老人   嵐の音だ。ここでは世の中のいろいろな音が聞こえてくる。風の音、人の声、人の世の喜びや悲しみ。・・・さて、話を続けよう。人間として生まれるというのは非常に尊いことでな。例えば、深い深い海の底に、こんな小さな一本の針が沈んでいるとしよう。激しい嵐の中を、天から一本の糸を降ろし、その針の穴へ通すことよりも、更に更に困難で稀なことなのじゃ。お前たちは、そのために何万何億、いや数えきれない中から選ばれた命なのだよ。だからおめでとうと言ったのじゃ。
青太   へえ、じゃ、僕たちもうじき赤ん坊になるって訳だ。
桃子   ステキ。私、どんな人になるのかしら・・・
黄郎   あれっ? まてよ・・・でも不思議だなあ・・・
桃子   なあに? 変な声出してどうしたの?
黄郎   だって、僕たちまだ生まれてないのに、話も出来るし、君たちの言葉も分かるよ。どうしてだろ?
青太   本当だ・・・世の中、嵐、海の底、命・・・まだ見たことも無いのにずっと前から知っているみたいだ。
桃子   そう言えば私も・・・どうしてだろう?
老人   そういう仕組みなのだよ。お前たちはここでは何でも話せるし、初めて聞くどんな言葉も理解できる。ただし、世の中へ生まれ出たとたんに、言葉は忘れる。ここでの記憶も全て消えてしまうがな。例えば、これは何かね?(手を上げてみせる)
青太   ハイ!・・・これは手です。ディス・イズ・マイ・ハンズ!・・あっ、今のこれ英語って言うんだよね。
老人   ほほう、何をするものだ?
黄郎   さわる! つかむ! 投げる!・・・それから、道具を使う! 文字を書く!
桃子   さよならする時、手を振る! 友情のしるし、握手をする!
老人   まだあるぞ。「この手で、未来を切り開く」・・・どうだ、全部分かるだろう?
 三人、「ほんとだ」「ふうん」「分かる分かる」など等。
桃子   わかんなあい。わかるけど、よくわかんない。
青太   ええ、何それ?
桃子   この手で未来を切り開くって、・・・どういうこと?
青太   なんだ、そんなこと簡単さ、なあ。
黄郎   うん。手はこの手だろ。未来ってこれから先のこと。切り開くは開くとか開けるってことさ。
青太   つまり、手で、これから先のことを、開く・・・あれ?
桃子   ほらね。それってどういうこと?教えて。
黄郎   ううん。・・・そうか。わかるけどよく分かんないや。
老人   はははは。心配することはない。ここを出て行く時には分かるようになる。
桃子   ねえ、私たちいつ生まれるの?
老人   世の中から合図があった時じゃ。
黄郎   合図? へえ、どんな?
老人   世の中で子どもが死ぬとな、ここへ欠員の知らせが来る。それが合図だ。一つの命が失われる代わりに新しい命が誕生するのだ。それまではここでゆっくり眠るがいい。・・あ、そうそう、このままでは何かと話がしにくいでな、お前たちに仮の名前をつけておく。・・・お前は、青いから青太だな。黄色だからキイロウだ。・・・お前さんは桃色か、では桃子にしておこう。いずれ親がちゃんとした名をつけてくれる筈じゃ。さてと、やがて合図が来たらな、「この手で、未来を切り開く」・・よいな。ではまた後で。
 老人、白と黒の使者、消える。
 不思議そうに見送る子どもたち。
黄郎   ねえ、友情のしるしだ、握手しよう! 僕キイロウだって、よろしく!
青太   僕、青太、よろしく!
桃子   私、桃子、よろしくね! (老人の口真似をして)「この手で未来を切り開く、よいな」
 三人、楽しそうに笑いはじける。
 「誕生の歌」とダンス
     はじまる! はじまる! はじまる! ヤア!
     うまれる! うまれる! うまれる! イェ!
     ああ 広い宇宙に一つ 一つだけの命
     あなたを見たい  
     もうすぐ会える
さあ この手で未来を つかむ! つかむ! つかむ!
この手で 未来を 切り開く
この手で 未来を 切り開け
(歌い終わらないうちに)
緑    うるさいね!・・・(登場)静かにしてよ。
桃子   だあれ、あなた?
緑    見れば分かるでしょ。み・ど・り。
青太   何してるの? 君も僕たちのように生まれるのを待ってるの?
緑    ていうか、まあね。
黄郎   じゃあ先輩だ。あっ、姉さんかも知れない。
桃子   友達になるかもしれないね。
青太   もしかしたら・・・恋人だったりして。(三人、笑いあう)
緑    違う! ・・・全部はずれ。友達にはならないよ。姉さんでも恋人でもないわ。
黄郎   何だか機嫌悪そうだね。
緑    悪かったわね。あんた達は、ずいぶん楽しそうだね。
黄郎   そりゃあそうさ、なあ!(二人、うなずく)
緑    へええ、どうして?
青太   どうしてって、これから人間に生まれて、生きて、それから、ええとそれから・・・
黄郎   それから幸せになるんだ!
二人   そう、幸せになるんだ!
緑   (かん高く笑い)そんなこと決まってないわ。子どもの時に死ぬことだってあるし、誰もが幸せになるとは限らないじゃない。
青太   何だいこいつ、頭にくるなあ。
黄郎   きみ、ずいぶんひねくれた考え方するんだね。
桃子   さっきからツンツンしちゃってさ、一体何が言いたいの。未来が分かっているようなこと言わないでよ。
緑    ・・・分かってるわ。
三人   ええっ!
黄郎   まさか、嘘だろう。
緑    いいこと教えてあげるわ。ここじゃ生まれた後の運命を一つだけ知ることができるのよ。喜ぶのはその後にしたらどう。
桃子   うんめい、って?
黄郎   何年か後の自分の姿かな。
桃子   へえ、そんなこと分かるんだ。
青太   じゃ、もしかしたら、君はもう自分の運命が分かっているのかい?
桃子   ねえ、あなたどうなるの? 教えて教えて。ねえ教えてよ!
緑    ・・・  
黄郎   なあんだ言えないのか。やっぱり嘘なんだろう。
緑    嘘だと思ったら、自分で聞いてみたら。
黄郎   誰にさ?
緑    さっきのおじいさん。呼べば出てくるよ。(反対側へ去る)
 三人、顔を見合わせる。
桃子   面白そうね。聞いてみようか。
青太   うん、読んでみようよ。
黄郎   よし。・・おじいさん!・・おじいさあん!
 老人、台の上に現れる。白・黒の使者たちも共に登場。
桃子   来た来た来た!・・・何だかワクワクするね。
老人   何か用かな?
桃子   ねえおじいさん、自分の運命が分かるって本当?
老人   運命か。運命というほどではない。未来のことを少しだけ予告することは出来る。お前たちも知りたいのか?
三人   うん、知りたい!
白1   おやめなさい。知ってどうなるのです。知らないほうが幸せってことも世の中にはあるのですよ。
黒1   それでも知りたがるのが人間の心というものさ。それに、知らぬが故の不幸ってことも、世の中にはあるからねえ。
黒2   ああ知りたい、知りたい。
白2   おだまり。知らぬが華よ! 知らぬが仏でいいの!
白3   考えてもごらんなさい。先のことが分かってしまったら、人生なんて味気ないわ!
黒3   ふふふ、さあどうかな。怖いもの見たさ・・・それは抑えきれないさ。
黒4   全部分かってしまう訳じゃない。ちょっぴりだ。ほんのちょっぴり。誰だってのぞいてみたくなるってものだ。
黒2   ああ見たい、見たい!
青太   どうする?
黄郎   そうだな。もしもいやなことだったらどうしよう?
桃子   平気よ。だって生まれたらみんな忘れちゃうんでしょ。どうってことないわよ。私は知りたい。
老人  (PCのキーをたたきながら)ほほう、青太は秀才だな。・・・桃子は、こりゃ遊んでばかりおる。・・・黄郎は、何というか、たいした努力家だ。
 三人は、この間に喜んだり、冷やかしあったり・・・
青太   ねえ、それっぽっちなの?
黄郎   それからどうなるの?
桃子   もっと詳しく教えてよ。
老人   まあ待て待て・・・では、本当にいいのだな? ファイナルアンサーか?
三人   ファイナルアンサー!
老人   では教えよう。青太から順に、その台の上に乗りなさい。
青太  (台に飛び乗り)こうかい。
 老人が手を振ると、光が、老人と青太にのみ当たる。長い悲鳴が聞こえる。
青太   なに、あの声?
老人  「仮名、青太。両親とも教育ね心、幼少より勉強一筋。趣味なし。部活動はしない。友達なし。テレビは見ない、遊ばない。一日の学習時間総計十六時間。校内テスト常に第一位。某有名高校を目指す」
 青太の母・続いて父、反対側に浮かび上がる。
母    どこに行ってたの今頃まで? まあ! あんな子とは付き合っちゃいけないって言ったでしょ。さあ塾の時間よ、早く行ってらっしゃい。ああ、9時に家庭教師の先生が来るんですからね。いいこと! えっ、将来のこと? 大丈夫よそんなこと。進路も将来も、みんなお母さんが決めてあげるから、あなたは勉強だけしていればいいの。分かったわね。
父    何のためかって? 決まってるじゃないか、いい学校に入るためだ。エリートになるためだよ。いい学校、いい会社、いい暮らし、それが幸福な人生ってことなんだ。お父さんを見てみろ。リストラ社会だって実力さえあれば怖くなんか無い。じゃ実力って何だ? 個性だとか生きる力だなんて言ってもな、結局は世の中、学力がものを言うんだよ。分かったな。
青太  「僕の学習計画表。・・・五時起床。漢字。六時英会話ラジオ。八時登校、四時下校。五時進学塾。電車の中で英単語。八時帰宅。九時数学三角関数。十時国語長文読解。十二時英語関係代名詞。一時予習復習。二時就寝・」・・・これじゃ疲れちゃうよ。
老人   疲れるな。「ある日、第一位であり続けることに疲れる。学校も家も、何もかもいやになる。某マンションの屋上を目指して、エレベーテーに乗る。」
青太   屋上? 何でそんな所行くの? ・・まさか、・・もしかして、自殺?
老人   そのつもりらしい。でも飛び降りるかどうかまでは分からん。これにはここまでしかインプットされてないのじゃよ。
青太   ちぇっ! 秀才だなんて喜ばせておいて冗談きついよ。僕いやだからね、そんなの。(台から降りる)
桃子   いくら秀才でも、死んじゃったらおしまいだよね。(台に乗る)おじいさん、私、秀才じゃなくてもいいから幸福になりたいの。よろしくお願いしまあす。
 老人の合図。強烈なバイクの音とハードロック。
老人  「仮名、桃子。勉強嫌い。母一人子一人。タバコ、薬物、万引き、ケンカ、家出の常習者。警察の歩道暦、多数。」
桃子   「金、持ってきたのかよ。・・・てめえ、ざけんなよ。足りねえんだよ、これじゃ。薬いくらかかると思ってんだよ!・・どうする、みんな?・・・明日までに持って来なけりゃ、おめえんちの店に火つけるってさ。あたしじゃないからね。・・分かったのかよ!」・・うそ! 私、何なの?
 桃子の母、浮かび上がる。
母    学校の保護者会? それどころじゃないだろ。パートなんだからさ、母ちゃんだってこれ以上休み取れないんだよ。・・・大体みんなあんたのせいなんだよ。何べん警察のご厄介になりゃ気が済むんだい。その度に呼び電話が店にかかってさ。全くみっともないったらありゃしない。母ちゃんをまたクビにさせる気かい。・・高校? へえ、どこでもいいよ入れてくれるんなら。先生に決めてもらいな。・・・何だって! ああもういい! そんなこと言うんなら、お前なんかどこへでも出て行きな!
老人  「深夜、暴走族とオートバイに相乗り、某国道反対車線に侵入。ハンドルを切り損ねて、横転!」
 大型トラックのクラクション、ブレーキ音。
桃子   ええっ、じゃ死んじゃうの?
老人   どうかな。おまえもここまでしか分からん。
桃子   馬鹿馬鹿しい、いやだもう。ああ、信じらんない。(台を下りる)
老人   さてと、お次は黄郎か。
黄郎   おじいさん、僕もういいよ。止めとく。
青太   えー、そんなのずるいよ、自分だけなんて。
桃子   そうよ。三人一緒じゃなきゃダメ。自分だけ抜けるなんて不公平よ。
青太   いいから早く乗れよ。
桃子   さあ、早くってば。(台に乗せようとする)
黄郎   分かったよ。乗ればいいんだろ。・・・おじいさん、僕は?
 老人の合図。
黄郎   あっ! 
青太   どうしたんだい?
黄郎   動かない!・・・腕が、腕が動かない。
二人   ええっ?
黄郎   どうしたんだろ。本当に動かないよ。
桃子   何故なのおじいさん、黄郎に何したの?
老人  「仮名・キイロウ。お前は、腕を奪われる」
三人   ええっ!
黄郎   腕を? 奪われるって、誰に?
老人   人間に。いや、社会にと言うべきかな。
 子どもたち、浮かび上がる。
子A   おい見てみろよ、こいつ両手がないぞ。
子B   おい、ジャンケンしようぜ。
子C   負けた方が家来になるんだ、いいな。
子全   ジャンケン・ポン!
桃子   畜生、ひどいじゃないか。こらっ、このガキ! 何てことするんだい。ぶっ飛ばすぞ!
 子どもたち消える。
 黄郎の父・続いて母、浮かび上がる。
父    いよいよ中学生か。おい、これからは何でも自分の力でやっていくんだぞ。だって、いずれは父さんも母さんも、お前より先にいなくなるんだ。だから自分自身で生きていく力を持たなくちゃならない。さあ、これ、一人で着てご覧。まずこうやって、足の指でボタンをはめる。そしたら服の裾の方から頭を突っ込んで、この襟の所から首を出すんだ。でもこれで終りじゃないぞ。学生服ってのは、ツメエリのホックをかけないと凛々しく見えないんだぞ。ホックは、仰向けになって、足でかけるんだ。ここにおいておくから、今日から特訓だぞ。(消える。入れ替わりに母。)
母    明日は入学式だから、もう寝なさい。ようやく自分で着られるようになってよかったね。この学生服、袖が邪魔だって、あなた言ってたでしょ。母さんもそう思う。今から、この袖切ってあげる。いいわね?
 母、ハサミで学生服の袖を切り落とす。未来の場の明り、消える。
老人   さあ、これがお前たちの知りたがった未来だ。この先、何がお前たちを待っているのか、それはわしにも分からない。あとはお前たち次第だ。
黄郎   いやだ! 僕いやだよ。・・・お願いだよ、おじいさん、何とかして僕の腕を返してよ!
青太   僕も! 僕、勉強ばかりなんていやだ。自殺なんかしたくない。死にたくないよ!
桃子   嘘だよね? わざといやなことばかり並べて私たちを試しただけだよね。本当のことじゃないんでしょ。おじいさん!
 老人、ゆっくりと首を横に振る。泣き叫ぶ三人。と、緑・登場。
緑    へん、だから言ったでしょ。喜ぶのは早いって。それを何にも知らずにはしゃぎまわって。甘いんだよ、あんた達は。
青太   何だと。お前なんかに僕の気持ちが分かるもんか!
桃子   そうよ。さっきから偉そうに。あんた、私たちに何か恨みでもあるの?
青太   きみ、言ってみろよ!
緑    私かい? じゃ言ってやろうか。私はね、・・・私は、あっ!
 黒の使者、白の使者、登場。
黒1   あの世からの合図が参りました。
黒2  「○月○日○時○分、A町交差点において、B少年十二歳、自転車で横断中、ダンプカーにはねられました。」
黒3   ああ、赤信号ですな。
黒4   従って、欠員一名。
白1   誕生、一名。
老人   緑、お前の番が来たよ。
白2   では行きましょう。さあ、私の手につかまって。
緑    いやだ! 私行きたくない。生まれてすぐに死ぬなんて、私いや!
白3   まあ、一体どうしたの?
白4   それに、何故死ぬなんて言うの?
緑    だって私、生まれて七日目に捨てられるんでしょ、駅のコインロッカーに。生きられる筈ないじゃない。
青太   ええっ。捨て子?
黄郎   コインロッカー?
桃子   ひどい! 赤ん坊なのに・・・
緑    おじいさん、私を連れていかないで。ここに置いて、お願い!
老人   それは出来ぬ。ここに留まることは誰にも出来ないのだ。
緑    そんな!・・・お母さんは何故私を捨てるの?
老人   さあ、何故だろうな。どんな理由でも理解は出来まい。
緑    ・・・どうしよう。
黒1   さてとどうやら出番だな。一つだけ方法がある。私と一緒においで。
緑    えっ、どこへ?
黒2   この際だ、お前たちもよくお聞き。生まれるのがどうしても嫌なら、あの黒い門から出て行けばいいのだよ。
緑    そうするとどうなるの? あそこには何があるの?
黒3   何も。何も無い。ただ消えていくだけさ。
緑    じゃ、やっぱり死んじゃうの?
黒4   いやいや、生まれないのに死ぬ訳が無い。
黒1   無の世界さ。始めから何も無かったことになる訳だ。
黒2   それに死は苦痛を伴うけれど、あそこは何も感じないですむのだよ。ただ溶けるように、すうっと消えるだけさ。
黒3   あっという間だ。ほんの一時、目をつぶるだけでいい。
黒4   さあ、私と一緒においで。
 緑、ためらい、途方にくれる。
老人   それもいやか。はてさて困ったものじゃ。
緑    青太! 私と運命を取り替えて!
青太   ええっ?
緑    私なら、マンションの屋上からきっと引き返す。あんたの代わりに生きて見せるわ。だからお願い。あなたの運命と取り替えて!
青太   僕・・嫌だよ。そんなこと出来ないよ。
緑    桃子、取り替えて。ね。私ならグレたりしないで生きるから!・・・黄郎、私、腕が無くても平気。だから取り替えて!(三人、逃げ回る。追いすがる緑)・・・だれか、私と命を取り替えて。お願い!
黄郎   やめろ緑! やめてくれ。・・・おじいさん、お願いだよ。緑を助けて。僕たちを助けてよ。
青太   僕、強い子になります。だから助けて!
桃子   私もいい子になるよ。助けて、おじいさん!
老人   何を助けろと言うのじゃ。わしの語ったことは、不確かな未来のほんの一部分だ。屋上へ上がっても気が変わって下りてくるかも知れんし、オートバイで転んでも死ぬとは限らん。未来は自分で切り開いていくのだよ。
青太   本当に、本当にそんなことが出来るの?
黄郎   出来るさ君たちは。自分の努力次第、心がけ次第で生きられる。やり直せるんだ。でも、ぼくの腕は努力したって返ってこないんだろ。僕だけ君たちとは違うんだ。ひどいよ。緑だってそうだ。どうして僕たちをこんなに苦しめるのさ?
老人   苦しむ? とんでもない。お前は身体の不幸はいやだと駄々をこねているのだろ。他の三人は死を怖がっているだけじゃ。
桃子   いけないの? 誰だって生きていきたい。幸福になりたいわ。それなのに、そんないやなことが待っている所へ、何のために私たちは生まれていくの?
老人   さあて、難しい質問だな。闘うこと、これが人間の尊いところだ。自分の境遇、自分の能力、いや自分のためばかりではない。世の中の不正や醜いものと闘うためだ。子どもが捨てられたり、落ちこぼれたりしてよいものか。手足が不自由な人でも堂々と生きていける社会でなければならん。そういう世の中を作るために人は生きるのだ。だから、子どもは宝だな。お前たちはまだ何の努力もしていないではないか。
緑    私、努力したい。闘いたい。でも生まれたばかりの私に何が出来るの? どうしたらいいの私は?
白1   負けてはだめよ。勇気をお持ちなさい。生きるのです。
黒1   楽におなり。消えてしまえは、苦しさも怖さも全てなくなるんだ。
白2   だまされてはいけないよ。あなたは死ぬと決まった訳じゃないわ。
白3   希望を持つのよ。きっと誰かが、あなたの泣き声に気づいてくれるから。
黒2   気づくものか。ロッカーの中は狭いぞ、暑いぞ、苦しいぞ。
黒3   かわいそうに。もうお前には泣き声も出やしない。
白4   あきらめてはいけないよ。行きましょう私と一緒に。さあ!
黒4   あきらめて目をつぶろう。おいで私と。さあ!
白全   さあ!
黒全   さあ!
白黒   さあ、さあ、さあ、さあ!
老人   さあ時間だ。緑、選ぶのじゃ。
   間
緑    お母さんは、私を待ってくれているの?
老人   待っているとも。世の中がお前を待っている。
緑    ・・・私、生きてみる。赤ちゃんは泣いて訴えるのね。私、精一杯泣いてみる。
老人   では行くが良い。誕生の門を開け!
 ホリゾントが開き、真っ赤な夕焼けが見える。
緑    ああ、きれいな夕焼け。
桃子  (走り寄る)緑! あの、あのさ・・
緑    あんた、お母さんのこと恨んじゃだめ。
桃子   えっ?
緑    親子喧嘩したって、あんたのこと面倒見てくれるじゃない。羨ましいわ。
桃子   みどり・・・
緑    意地悪言ってごめんね。私、怖くて、不安で、それでイライラしてたの。もしも私が生きられたら、あなたたちも助かるわ。未来は確かに努力で切り開けるわ。
桃子   みどり、私、何て言ったらいいか分かんないけど、・・・とにかくすごいよ。
青太   みどり、僕こそごめんな。
黄郎   みどり、負けるなよ。
 三人、口々に「がんばるんだよ」など等。
緑    (立ち止まり)お母さん・・・(退場)
 緑、白の使者、下手に退場。続いて上手へ黒の使者。老人、中央奥へ。
  間
青太   ・・・未来を切り開くって、緑のように自分で決めるって言うことなのかな。
桃子   緑、何だか急に大人になっちゃった感じだね。私、取り残されちゃったようなヘンな気持。
黄郎   緑は何かしようとしている人。僕たち、ただ待っている人。
青太   今度合図が来たら誰の番だろう? おい、どうする? ねえ、何とか言ってくれよ。
桃子   ビクビクしないの。男でしょ。
青太   だって・・・きみ、怖くないのかい?
桃子   そりゃ怖いわ。でも私たちだって、努力次第で生き方を変えることは出来るのよ。緑が助かればはっきりするわ。
青太   緑はすごいな。勇気があるよ。・・・神様、どうか緑が生きられますように! そうだ。ねえ、緑が助かったら、僕たちみんなで友達になろうよ。
黄郎   いいなあ。そうなったらどんなにいいだろう。
桃子   あたしは落ちこぼれ。あんたは秀才。それでもいいの?
青太   うん。しかたがないもん。我慢して付き合ってやるよ。
桃子   言ったな、こいつめ。(ふざけて追いかけまわる)
青太   ハハハハ・・・僕、変わるんだ。有名校なんて入れなくてもいいさ。屋上からきっと下りてくるぞ。そして生活をやり直すんだ。
桃子   あたしも。私きっと運動神経いいからね。バイクで転んだくらいじゃ死なないよ。骨折くらいするかもね。もう煙草も薬もやらない。きっとまともになるんだ。
黄郎   これから沢山の人と出会って、いろいろなこと体験するんだよね。
桃子   笑ったり、泣いたり、喜んだり悲しんだり、考えたり感じたりするんだわ。
青太   そしていつか、何かになっていくんだ。どうなっていくのかなあ。
黄郎   僕、医者になりたいな。医者になって、命を守る仕事が出来たらいいな。
桃子   へえ、合ってるじゃん。がんばりなよ。
黄郎   桃子は?
桃子   私? 私、何でもいいから明るい人になりたい。素直になりたい。本をたくさん読みたいな。・・・図書室の匂い。フォークダンスの輪。おしゃべりしながらみんなで帰るの、夕暮れの道。・・・友情。青太は?
青太   僕、どうも弱虫みたいだから強い人間になりたい。友達をたくさん作りたい。部活に入って野球の選手になりたいな。投げて、打って、走って、思いっきり汗かいて・・・そうだ、黄郎、キャッチボールしよう。きっと面白いぜ。きみキャッチャー。ここに座って。
桃子   じゃ、私アンパイヤーやってあげる。
青太   よし。じゃいくぞ。ピッチャー青太振りかぶって第一球、投げました!
桃子   ボール!
 見えないボールでキャッチボール。第二球はストライク。黄郎、何を思ったか、青太に投げ返さず、あらぬ方向に荒々しく投げ捨てる。
青太   あっ、何すんだよ。
桃子   どうしたの、黄郎?
黄郎   分かってるくせに! どうして僕がキャッチボールできるんだ? 僕の腕は無くなるんだぞ。両手が無くて、僕なんかが医者になれるもんか!(台にうずくまる)
青太   ・・・なれるさ。努力すれば何にだってなれるんだ。黄郎みたいな人が立派に生きていく世の中を、僕たちで作ろうよ。
桃子   元気出して! 私たち友達になるんでしょ。応援するよ。ね!・・・あっ!
 黒の使者登場。続いて白の使者。最後に老人。
黒1   あの世からの合図が参りました。
三人   ええっ!・・・
黒2  「○月○日○時○分。C町マンションで火災発生。DEの兄弟が逃げ遅れました。」
黒3   兄弟二人、同時ですな。
青太   やったあ、ばんざあい!
黄郎   青太、よしなよ。
青太   えっ、何?
黄郎   人が死んだのに、喜ぶなんておかしいよ。
青太   あっ、そうか。ごめん。緑のことばかり考えてたものだから、つい。
桃子   でも、緑じゃなかったのよ。
青太   そうさ。助かったんだよ緑。助かったんだ。
黄郎   よかったね。ほんとによかった。
青太   だろ? だろ? みんなだって嬉しいだろ?
黄・桃  うん。
 三人、笑い出し、歓声を上げて動き回る。
黒3  「続いて○月○日○分。○○駅構内コインロッカーにおいて、F少女ゼロ歳、脱水症状で発見されました」
三人  (口々に)ええっ!何だって!そんな!
黒1   従って、欠員三名。
白1   誕生、三名。
   間
老人   三人一度にお迎えが来たか。
青太   畜生! やっぱり緑は駄目だったんだ。僕も屋上からは下りてこれないんだ。
桃子   私も、怪我だけじゃ済まないんだわ、きっと。やり直せやしないんだわ。
黄郎   努力すれば未来は開けるなんて、嘘じゃないか!
白1   嘘じゃないわ。あの子は精一杯がんばった。でも自分ではどうすることも出来ない赤ちゃんだもの。
白2   でもあなた達は違う。あなた達には意思も力もあるわ。
白3   そう。あなた達が生きたいと信じさえすれば出来るのよ!
白4   信じなさい。生きる力を。人間を信じるの!
黄郎   信じたい。信じたいよ。でも、もし何も出来なかったら・・
青太   もし負けてしまったら・・・。ああ、どうして僕、自殺なんて考えたんだろう! 何故勉強だけが大事だなんて思ったんだろう!
桃子   何故グレたりしたんだろう! どうしてヤケになってしまったんだろう!
青太   親が悪いんだ。無理やり勉強させるから。僕のせいじゃない!
桃子   お母さんが悪いのよ。私のこと、放ったらかしてばかりいるから!
黒1   そうともお前たちのせいじゃない。悪いのはあいつらさ。・・・ふふふ、努力なんかしたところでなるようにしかならない。人間なんて所詮そんなものさ。
黒2   分かるだろう。世の中には勝つ人間と負ける人間がいる。お前たちは負けるんだ。
黒3   いいじゃないかそれで。もうお前たちは十分に悩んだ。苦しんだんだ。
黒4   そう。だから楽になってしまうことだ。・・・さあ、行こう。おいで。さあ!
青太   僕、僕行くよ!(走り出そうとする)
黄郎   待て青太! いいの? 本当にそれでいいの?
青太   だって、もう沢山だ、こんな怖い思いするの。もう嫌だ! それに途中で自殺するんなら、始めから何もしないのと同じだもの。
黄郎   じゃあの時、何故緑と代わってあげなかったんだ。どうせ消えてしまうなら、緑と代わってあげればよかったじゃないか!
青太   それは・・・でも、それは僕だけじゃない。君たちだって同じじゃないか。
黄郎   そうさ。誰も代わってやれなかった。断ったんだ。何故さ? それはきっと、自分の未来が大事なものだって思ったからだろ。それなのに、今ここで捨てていいのか?
桃子   友達になるって約束したじゃない。私、すっごく嬉しかったよ。約束破るのかい?
青太   ごめん。僕はやっぱり意気地なしだ。もう疲れちゃった。もう何も考えたくない。本当に楽になりたいんだ。
桃子   ああそうかい、分かったよ! 消えたい奴はトットト消えちまえ! チェッ!もうどうでもいいや。何もかもかったるくなっちまった。・・・やっぱり私のことなんか、思ってくれる人なんていないんだ。・・・いいさ。へん、上等だ。どうせ未来だとか人生なんかにゃ期待しちゃいねえんだ。こうなったら一日一日面白おかしく、やりたい放題やってやらあ。落ちこぼれでもゾクでも、何にでもなってやらあ。・・・アタシ、こっち行く。黄郎、私と一緒に来るかい? それとも青太と行くのかい?・・・黄郎!
黄郎   僕、消えてしまうのは嫌だ。でも・・・でもまだ決心が・・・
桃子   ちぇっ。さっきは青太に偉そうなこと言ったくせに。
 三人、佇立する。
老人   断っておくがな、お前たち。人生は一回こっきりだ。生まれるにしろ、消えるにしろ、たった一度しかない人生だ。生まれ変わったり、初めから生き直すことは出来ないのだぞ。そこをよく考えて決めることじゃ。
 間。突然、赤ん坊の泣き声。
桃子   あっ、赤ちゃんだ。赤ちゃんが泣いてる。
 間。泣き声、火がついたように。
黄郎   緑だ! 緑が泣いてるんだ!
青太   だって、みどりは死んだんだろ。あれはどこかの赤ん坊が、ミルクが欲しくて泣いてるだけだよ。
黄郎   そう。ミルクが欲しくて泣いたんだ。緑もきっと、ああやって泣いたんだ。
桃子   すごい泣き声。まるで誰かを呼んでいるみたいだね。
黄郎   呼んでるのさ。生きたい生きたいって、呼んでるんだ。
 間。泣き声、ふっと消える。
青太   あっ、消えてしまった。
桃子   あんなに、生きたがってたのに・・
黄郎   ・・・そうか。トレーニングしてたんだ!
桃子   どうしたの?
黄郎   ねえ。初めて出会ったとき、緑が何してたか覚えてる?
桃子   ええと、走り回って、やたらと身体動かしてた。
青太   手足の屈伸したり、腕立てとかもやってた・・
黄郎   鍛えてたんだ身体を。コインロッカーの中で、誰かが気づいてくれるまで、大きな声で泣けるように。手足をバタバタ思い切り動かせるように。体力付けようとしてたんだよ、きっと。
青太   そうか。そうだったのか・・・うん、きっとそうだ。
桃子   そんなにまでして・・・すごい。緑って、やっぱりすごい。
黄郎   みどり。ぼく、生きていくよ。
桃子   キイロウ・・
黄郎   僕たち、口ばっかりで何もしていなかったんだ。でも、緑はやった。・・・決してあきらめない、力の限りやってみる。この手で未来を切り開くって、きっとそういうことなんだ。緑がそれを教えてくれているんだよ。・・・青太、桃子、僕たち生きていこうよ!
青太   緑。僕、弱虫だけど強くなって見せるよ。今度こそがんばるよ。
桃子   緑。私、ちゃんと生きて、結婚して、子ども産んで、いいお母さんになるわ。約束するよ!
黄郎   緑の未来を僕たちで生きるんだ。
二人   うん。
黄郎   おじいさん、僕たち、生きていきます。(二人も口々に)
老人   そうか。・・・ファイナルアンサー?
三人   ファイナルアンサー!
老人   三人とも、その決意をいつまでもな。これで何かが解決したわけではない。お前たちのことは、これから始まるのだから。よいな。つまり、その手で・・
三人   未来を切り開く!
黄郎   ようし、やるぞ。
青太   うん、必ずね。
桃子   さあ、行こう!
老人   では行くがよい。達者でな。誕生の門を開け!
 ホリゾントが開き、真っ青な青空が見える。
桃子   ああ青空だ。雲が浮いてる。
 「誕生の歌」
  はじまる はじまる はじまる ヤアッ!
  うまれる うまれる うまれる イェ! 
  ああ 広い宇宙に一つ 一つだけの命
  あなたを見たい
  もうすぐ会える
  この手で未来を つかむ つかむ つかむ
この手で 切り開く
この手で未来を 切り開け
桃子、青太、白の門の方へ。使者たちも退場。
黄郎、何か言いたげに立ち止まる。
老人   どうした?
黄郎   ・・・今、緑の声を聞いたような気がする。
老人   ほう。緑は何を言ったのかな?
 辺りが暗くなり、下手後方に緑が浮かび上がる。
緑    私、何とかいう大きな駅のコインロッカーで生まれたの。鍵はかかってなかったんだって。小さな四角い扉がそっと開いて、蛍光灯の光がさあっと入ってきたわ。それと、わいわいがやがやって、大勢の人の声や足音とかもね。若い駅員さんが私をコインロッカーから引き出してくれて、すぐにおまわりさんが抱き取ってくれた。冷たくなってた私の手と足をね、二人して駅長室で、大きな掌にくるんで温めていてくれたんだよ。救急車が来るまでずうっと。・・・クリスマスソングっていう賑やかな音楽が遠くから聞こえてた。このマフラーね、私の体の上に掛けてあったんだって。・・・それからは私、もう泣かなかったよ。だって、駅員さんとおまわりさんが代わりに泣いてくれたから。二人して、私の手足を温めながら、がんばれ・がんばれって泣いてくれたんだ。救急車の人も、看護士さんも、それからお医者さんも、みんな泣きながら私を温めてくれた。がんばれ、がんばれって。だから私、頑張ったよ。だから私、もう泣かない。(消える)
 明り、元に戻る。
黄郎   僕の母は、泣いたことある?
老人   ないな。一度も泣かない。
黄郎   ほんと? 良かった。・・・僕、どんな学校へ行くの?
老人   普通の学校だよ。
黄郎   きっと、さっきみたいにからかわれたり、いじめられたりするだろうね。
老人   何処にでもそういう人間はおるな。 だが、そうでない人間も大勢おる。
黄郎   仕事に就くのも大変だね。
老人   そうだな。社会はまだまだ変わっていかねばならぬ。
黄郎   それでも僕が生きていく意味があるの?
老人   人間は皆、何かのために生まれていく。それを信じることだ。
黄郎   僕は、特別の人生を生きるんだね。
老人   お前という人間は、世界にたった一人しかおらん。誰にとっても特別の人生さ。
黄郎   僕、信じるよ。心にしっかり刻み付けておく。
 遠くで、青太と桃子の呼ぶ声。「キイロウウ、早く来いよう」
 音楽、静かに。
黄郎   おかあさん。すぐに行くからもう少し待って。・・・さわる。つかむ。投げる。・・・道具を使う。文字を書く。・・・僕、どんなに苦しくても負けないよ。おまえが無くても大丈夫、がんばるよ。この手で、未来を、・・・約束するよ。・・・グッバアイ マアアイ・・・
 音楽、盛り上がる中で幕。
 フィナーーレ、誕生の歌と踊り全員で。


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